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高嶋ぽんずさんの短編を解析する(文章技術解析)・2

 前回の続きから。

 1回目で、私は「欠損情報=謎を提示することで、読者の興味を惹き、その後で解答を示す」という方法で、シーン、あるいはシークエンスを繋ぐ、という方法説明しました。映像作品やミステリ系の作品では謎を提示することを「伏線」、謎の答えを提示することを「伏線を回収する」などと言いますが、これも「欠損情報の提示によるシークエンスの接続」という技法の亜種だと思って構わないでしょう。

 この方法のメリットは、前回でも述べたように「読者の興味を惹く」ことにあります。どんな娯楽でもそうですが、オープニングで読者の興味を惹くことは重要ですから、インパクトのあるシーンをトップに持ってくる方法と並んで、謎の提示は好まれる傾向にあります。

 じゃあ、このタイプの「繋ぎ」にはどんなデメリットがあるのか? すぐに思いつくのは「長編に不向き」です。つまり、シーン、あるいはシークエンスを繋ぐのに、全て欠損情報=謎=伏線を提示していたら、長編を書いていく際に膨大な伏線を張っていく必要性が出てきてしまいます。

 一部の読者・及びに作家の中には、こうした数十もの伏線を張る事を「高度だ」と思っているフシがあるのですが、文章技術的な面のみで評価した場合は「稚拙」のひとことで片付けられます。もちろん、稚拙=ダメというわけではないし、娯楽小説は読者に喜ばれてナンボなので、伏線を張りまくる方法もありなのですが、一部の推理小説・ホラー小説では明らかにやり過ぎで、読者が多すぎる伏線を把握できず、むしろギャグの領域に突入してしまっているものが見受けられます。

 もう1つの問題は、シーンをつなげられない上に、話が平坦で詰まらない作家がこの技法を濫用する傾向がハッキリしている点で、小説を読み出したばかりの初心者ならともかく、割と冊数を読んでいる読者には「どうせ詰まらないんだろう?」と決めつけられてしまいがちです。そして、私の知る限りでは、この偏見が的中する確率は非常に高いんです。要するに、話が詰まらないのを何とかする目的で「謎の提示」を多用しているわけですね。

 ここから先はあくまで「理想論」として読んでいただきたいのですが、ストーリーが面白ければ、わざわざ欠損情報を読者に提示して、そこで興味を惹くという手法を使う必要はないし、また文章技術が高ければ、欠損情報を埋めるという方法でシーンとシーンを繋ぐ必要性もないわけです。

 もちろん、これはあくまでも理想であって、現実に小説を、特に長編小説を書くときには、大抵の作家は自分が持っている技術のバリエーションを限界まで使わざるを得ない事の方が多いんです。これは単純に文章量が多い→その分だけシーンやシークエンスが多い→繋ぐ方法をいろいろと駆使しなければならない、という「文章量がもたらす問題」に直面するからです。

 じゃあ、この点でぽんずさんの作品はどうなのかというと、1500字という文字数では、まずこうした問題は発生しません。これが、第1回目で評価の対象になった「破綻していない」に繋がっています。つまり、軽ければ問題のないシークエンス間を繋ぐ技術を使用している点を評価しているわけです。

 ただ、章量が少ないということは、ニアイコールで説明が不足しているということでもあります。現代の日本を舞台にするなどの、背景情報を省略できる舞台設定でない限り、あまりやり過ぎるのは危険で、特にファンタジーやSFでは減点の対象となります。そして、この点ではぽんずさんの作品も減点せざるを得ません。

 具体的に指摘していきましょう。

 まず、原典の『蜘蛛の糸』では、蜘蛛の糸は地獄と極楽を結ぶラインという設定になっており、カンダタは蜘蛛の糸を登り切れば極楽に行ける、ということが示唆されています。

 ところが、ぽんずさんの作品では、

このまま糸を伝って天井に上がれば、亡者は自分の後を追って天井にたどり着き、現世にあふれかえることになってしまう。

 となっており、カンダタの行き先が極楽から現世に戻るという設定に改変されています。にもかかわらず、彼は極楽にいる釈尊と顔を合わせて会話をしており、このあたりの設定がどうなっているのかが全く分かりません。

 以上が、ぽんずさんの短編に対する私の分析です。

 要約すると、この小説で減点対象となるのは、前回説明した「何時が?」という情報が抜けている点と、「どうやって現世に戻るの?」という情報が抜けている点の2つのみで、後は問題ナシということになります。2度目にこの短編を読んで出した結論が「良くできている」だったのは、これが理由です。

 ただし、ここからがちょっと厳しい話になってくるんですけど、1500字の作品に対して2カ所の情報抜けは、長編小説を書くとしたら、かなり悪いアベレージです。具体的な数字を出して説明していきましょう。

 例えば、今回書いた私の小説は、約17万字強になります。これに、ぽんずさんと同じアベレージで情報抜けが発生したとすると、170000÷(1500÷2)=約267カ所。これは誤字脱字ではなく、全て情報抜けですから、当然のことながらそれらの抜けを修正時に埋めていけば文字数は飛躍的に増加します。

 これは、仮にぽんずさんが長編小説を書いた場合、推敲後の修正で原稿枚数がコントロール不能になる可能性が高い事を示唆しています。ピッチャーにたとえるのであればノーコンです。電子書籍であれば問題のない欠点ですが、印刷費がかかるハードコピーの作家としては割と致命的です。何故なら、よほど大御所でもない限り、作家は編集者から指定された枚数内で作品を完結させねばならないからです。

 情熱の赴くままに書いていたら、枚数を遥かにオーバーする作品になってしまい、その後の調整に失敗して作家稼業から足を洗わざるを得なくなった人は、外部の人間が思っているよりも、実はずっと多いんですよ。

 けれども、この欠点は長編小説を書かなければ顕在化しないわけで、「だから、ぽんずさんはダメ」とも言えないわけです。軽い飛行機と重い飛行機は、設計の方法が違うという説明が分かり易いかもしれません。

2件のコメント

[C4373] ツッコミ歓迎

 うちの WebLog(ttp://animaleconomicus.blog106.fc2.com/)で、文章講座のようなものをやっております。
 初心者向けではございますが、上から目線で文章の何たるかを語っちゃったりしていますので、語る側としては、「語った」テキストに対しては、厳しい目線でツッコミを入れられて当然、と考えます。
 こちらのブログは大変興味深く読ませていただいております。「もっと書け」と内心では思っておりますが、プロの皆様にそれ言ったら失礼だろう、と思います。お金払ってないんだもん。
 通りすがりの方々を含め、よろしければ ご指導ご鞭撻(つまりはツッコミですが)賜りたく存じます。ありがたくイジらせていただくかもしれませんが、そんときゃゴメン、と今のうちにお詫びしておきます。
 では。ご挨拶まで。

[C4375] 大変ご無沙汰してもうしわけありませんでした

わざわざ添削、評価して頂いたのに、お礼の言葉が遅れ、今になってのかきこみ、大変心苦しく思います。

ご指摘の点、他の元編集の方からも指摘され、鳥山さんからの一言もありダブルパンチでわりと凹んでました。
さらに、二次創作の落とし穴や問題点、ものの見方、掌編と長編の書き方の違い、その他創作活動にあたって、いろいろ目まぐるしい変化が起こりすぎ、さながら嵐のように意識改革が起き続けている現状です。あまりに激しいので、収まるまでとてもじゃないのですが、創作活動が出来ない状況になっています。
そのきっかけのひとつとなったのが、今回の鳥山さんのご指摘で、いやはや有り難いという思いです。

今回ご指摘された問題点を少しずつでも咀嚼し、自分の栄養にして創作活動に勤しみたいつもりです。

それにしても、書こうとする度に、様々な問題点が押し寄せてきて、その対応をしていると、まったく掌編すら書き上げられない現状はどうにかならないものでしょうか(笑)。わりとおこまりさんです。
  • 2011-08-29
  • 投稿者 : 高嶋ぽんず
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toriyamazine

Author:toriyamazine
東京都出身。
高校在学中にライターとしてデビュー。
以降は編集者・ライター・ゲームディレクター・実写アダルトDVDの監督、そして作家を兼任。
仕事はSMポルノ関係全般で、小説、ゲーム、実写etc、アニメーションを除くすべてのポルノ作品を平行して制作。年間発表数は約6作品前後がコンスタント。
一般作に関しては、別名義、もしくはアンカーマンとしてのみ参加中。

追記・最近になってメールで連絡が取れないという非難が多く聞かれるようになったので、仕事用のアドレスを公開しておきます。
jjnewzine★gmail.com
です。★マークを@に変えて使ってね。

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