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知識格差の作り方&分かり易い歴史

 せっかく通常業務に戻ったにもかかわらず、不快な出来事が連続で発生。何かの呪いかね?

 まず、ここ数ヶ月かかりきりだったノンフィクション本が、私の意図しない形で知人の共産党員の目に触れることに。正直言って、これは避けたい出来事だった。今回の作品は終戦直後の通史を意図したもので、社会党や共産党シンパの中でも、上層部を除く構成員にとっては「都合の悪いこと」が沢山書かれていたからだ。

 案の定、党員の本に対する反応は「もっと分かり易く書かないと、一般に受け入れられない」という、ぐったりする代物。

 ぐったりした理由は、大きく分けて二つある。一つは左派系の政治団体の方針として「教育はプロパガンダの一種」があり、この党員があまりにも忠実に、この原則を守っていたことにある。当然、歴史教育もプロパガンダの一種だから、政治団体にとって都合の悪いことは削除される。その際に、合理的な説明として「分かり易くする」ことが方針として示される。つまり、「歴史を分かり易くするために、仕方なく(自分たちに都合の悪い)事実が削除される」わけだ。

 この「左派のプロパガンダにとって都合の悪いリスト」はあまりにも膨大でとても記述できる量ではないが、戦前から戦中にかけての人物に絞ると、永田鉄山麻生久有馬頼寧の3人、及びに近衛文麿の詳細な経歴と言うことになる。

 ぶっちゃけ、上記4人の書籍中における扱いを見るだけで、その本がちゃんと戦前から戦後にかけての社会主義運動や労働運動を扱っているのか、単なるプロパガンダ本なのかが分かる。すなわち、たいていの本はプロパガンダとして書かれている。近衛はさすがに「いなかったこと」にできないので歪曲した人物評を掲載し、永田も「いなかったこと」にはできないから、暗殺された部分だけをフレームアップ。そして、麻生と有馬は「いなかったこと」にできるから書かない、というのが一般的だ。

 このようなマジックが使えるのは、永田の死亡年が1935年、麻生の死亡年が1940年、有馬の政治家引退年が同じく1940年という偶然にある。だから、1941年以降、できれば戦後の社会運動史、または労働運動史という縛りを設ければ、著者が小細工を労さなくとも、最低3人を書かなくて済むわけだ。既に死んでいるか政治的影響力を失っている人物を取り上げる必要はないからね。

 そこで、独学で社会運動史に取り組もうとする人間の大半が、何年もかけて何冊も本を読んでも、この3人の事績はおろか、名前すら覚えられないという現象が発生する(ホント)。で、こういう形で洗脳されちゃった連中が、「そもそも戦前は……」という語りを始めたがる(これもホント)から、見るも無惨な日本近代史が一丁上がり、ということになる。

 二つめの理由は、この本の監修にある。今回の本の労働史の部分に関しては、ちょっとした裏技を使って、共産党の古株党員にデータマンの役をやってもらっていたのである。つまり、古参党員と現役党員の間に暗くて深い知識の壁があったのだ。ここからが面白いのだが、私、今作の主筆者、そして監修者が、まったく意図せず戦後労働運動のキーパーソンとして、取り上げるかどうかを考慮したのが鈴木東民だった。

 東民も鎌田慧が1990年に「反骨-鈴木東民の生涯」を書いて新田次郎文学賞をもらうまで「いなかったこと」にされがちな人物だった(ここは笑いどころですヨ)んだけど、アイコンタクトとというか何というか、全員がぴたりと「東民、どうしようか?」になったのには笑わせてもらった。

 しかし、そうした数少ない楽しい思い出も、「分かり易く書かないと駄目だ」の一言でだいなしである。頭に来たので、オタクに分かり易い戦前人物史をテスト作成してみた。以下がその例示である。

閑院宮載仁親王(かんいんのみや ことひとしんのう)
1865年~1945年

 皇室のドズル・ザビ。若い頃からモビルスーツ、じゃねぇや、騎兵としての訓練をジオン公国じゃなくてフランスで受け、日本有数の騎兵将校となる。日露戦争で活躍。1931年から陸軍参謀総長に就任。ザビ家、じゃなくて皇室出身の軍人として、陸軍の高級将校らがお飾りとして利用しようとしたが、彼らに反発して大暴れ。純粋な武人で、戦功もあり、人望も厚かったため、利用しようとした軍人の方が返り討ちに遭うが、このせいで陸軍内部が大きな混乱に見舞われる。

 1937年に始まった日中戦争では不拡大方針を唱え、政府に中国との即時停戦を申し入れるも、ギレン・ザビじゃなかった近衛文麿が格好をつけたがったせいで和平交渉は失敗。「戦いは数だよ。広い中国を占領できるわけが無いじゃないか」という名台詞を残す(ウソ)。この件がきっかけで、陸軍参謀本部は政治家に対して強い不信感を持つようになり、政治家と軍人の対立に拍車がかかるのであった。


 どうか? 分かり易いか?

11件のコメント

[C603]

来週神保町へ資料の買出しに行きますので、ノンフィクション本の書名を教えて頂けませんか?是非購入したいので・・・
  • 2008-08-12
  • 投稿者 : 明日死能
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[C607] 明日死能さん

ありがとうございます。書籍は
http://item.rakuten.co.jp/book/5809913/
です。
ただし、ソ連マニアでしたら笑いどころ満載なんですけど、近代史がお好きでなければ購入は控えた方がよろしいかと。
  • 2008-08-14
  • 投稿者 : 鳥山仁
  • URL
  • 編集

[C612]

先日から興味深く読ませて頂いております。終戦記念日ですし。

 確かに、太平洋戦争の開戦原因はなんだかよく解りません。山本五十六は、対米戦には反対なのに、対ハワイ戦には積極的に関与したりしているからです。戦争反対の人が戦争を推進してるように見えますね。

 別宮暖朗氏の新刊なんかも一緒に読んでるのですが、同氏は「太平洋戦争の開戦原因は、真珠湾攻撃それ自体である」としてますね。つまり、真珠湾攻撃作戦という戦闘プランが勝手に暴走したとしてます。ドイツみたいにです。

 官僚的無責任のなせる技ですが、これじゃ官僚がいかに嫌らしい存在かを理解できない人は、永久にこの戦争の実態を理解できないんじゃないですか。特に社会主義者は、官僚をヒーロー視するのがデフォルトだったりしてます。

 そういえば、山本五十六(というか海軍条約派全員)は一般国民を蔑視してました。山本は、もし東京に爆弾を落とされるような事態になれば、国民は「忽ち志気を喪失する」と信じていたようです。実際には、いきなり市街地を攻撃されたりすれば、国民は激怒しこそすれ、途端に腰砕けとなって平身低頭なんかしないものなんですが。要するにこういうノリで真珠湾攻撃を立案した(米国民の志気が忽ち喪失すると信じた)らしいので、もうどうにもならんかったでしょうね。国民や兵をその指導者が信用していないのでは、確実に負けるでしょう。
  • 2008-08-17
  • 投稿者 : Seven
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  • 編集

[C615]

そもそも海軍の異常なまでの決戦主義は、日本人には不屈の精神が足りず長期戦に向かないというところからでてきたらしいですね。だから短期で勝てるだけ勝って講和を引き出すしかない、ということでミッドウェイ攻略につながったのかなあと思ってみたり。
海上護衛戦で有名になった大井篤も、著作の中で「日本人は概して堅忍不抜の精神に欠ける。線香花火のようなもので攻勢にはいいが守勢には向かない」とか書いていたような。
  • 2008-08-18
  • 投稿者 : sugi
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  • 編集

[C617]

>sugi氏

 海軍の「決戦主義」には、仰るように官僚的日本人観も影響したとは思うのですが、より根本的な問題として、日米の国力差があったと思われます。

 元々米国は日本海軍の仮想敵ではなかったのですが、ワシントン・ロンドン軍縮条約が米国に対する不信感を募らせました。いわゆる「海軍休日」ですが、これは海軍予算の抑制をも意味しており、官僚論理からすれば許されざる事態でした。予算削減は、組織の弱体化であるからです。

 更に、海軍の焦燥感を煽ったのは、日米の国力差です。ナチスドイツが台頭してくると、アメリカは海軍力の増強に本腰を入れ始めます。決定的な影響を与えたのはヴィンソン・プランで、これによると当時最大級の航空母艦であったエセックス級がじゃかじゃか就役する事になっており、日本の工業力ではそれに追いつくのは到底不可能と認識されました。何しろ当時の米国は、日本の20倍は国力があったのです。ですが、エセックス級が本格投入されるまでの「僅かな一瞬」であれば、若干日本海軍の航空戦力が勝っていたのです。米国海軍を叩くには、「この一瞬」を狙うしかない、と当時の海軍軍人達は追い詰められた心境に陥っていたようです。「一瞬」なんですから、当然短期決戦主義にならざるを得ません。

 何故追い詰められた心境になってたかというと、日本帝国海軍が米海軍に対抗不可能となれば、米軍に抗する手段は「本土決戦」以外に無くなってしまうからです。即ち帝国海軍は国防の中軸から外されて、陸軍が権限強化される事を意味してました。これは当時の海軍官僚からすれば、耐え難い事態だったようで、たとえ祖国が滅亡の危機に直面しても、米海軍を弱体化させる必要に迫られていたのです。米国とは外交で仲良くやってけば良いじゃないか、という突っ込みもあるでしょうが、当時の海軍官僚には、この「外交」という観点が欠損してました。実際、太平洋戦争中も、最初から最後まで、まともな外交が出来てません。

 戦後の東京裁判で、米内光政はすっとぼけた態度で「何か」を隠蔽し通したとされてますが、この海軍の焦燥感と、是が非でも米海軍を叩きたい、という総意がその「何か」だったのではないでしょうか。つまり彼らは、国益ではなく、省益を追求した結果、真珠湾に爆弾を落としてしまったのではないでしょうか。
  • 2008-08-19
  • 投稿者 : Seven
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  • 編集

[C622] sevenさん sugiさん

二人とも早い(笑)。

sevenさんがおっしゃるように、太平洋戦争は真珠湾攻撃から始まっており、日米間でハワイの領土を巡る係争がない以上、回戦責任者は山本五十六で確定でしょう。

問題なのは「日本人は精神力が弱い」、「アメリカ人は精神力が弱い」が「誰と較べると弱いのか?」という点で、答えは間違いなくドイツ人です。

この「ドイツ人の優れた精神力」というイデアが体育会系に行くと精神論になって、文化系に行くとドイツ礼賛かドイツ型市民社会礼賛になるんですけど、その話を書いている途中に結論が出るのはしゃくですね。

どうしてくれよう。
  • 2008-08-22
  • 投稿者 : 鳥山仁
  • URL
  • 編集

[C732] 遅ればせながら、購入させていただきました。

第二部まで読み終わりました。

しかし読んでて思ったのは歴史は嘘をつかないということですね。(分かりやすくされるという悲劇もありますが)

いくら理想論を掲げようとも歴史という事実には勝てない。

しかし官僚は昔からどうしようもないですね。「資源妄想」の説明を読んでから特にそう思いました。しかし創作物のお話で失礼しますけど麻生議員がこのような思考をお持ちだったとしたら、対外交戦略においてマンガを使用する場合、検閲させる可能性は多いにありますね。

開戦の責任は海軍にあったことも驚いたのですが、その理由がsevenさんの仰った理由だったのだから更に驚きです。
しかし第二部に書かれていることは特に多くの国民が知らなければいけないなと強く思いました。

第三部はこれからですが、興味深く読ませて頂きます。執筆ごくろうさまでした。
(まだ人物紹介でしか読んでませんけど東条英機のような方は今の日本でも見かけますね)

[C743] mudanさん

ご購入、誠にありがとうございます。
紙数の都合でかなり端折った内容になっていますが、当時の計画経済というのは、だいたいあんなもので、「作る」ことよりも「作らせない」結果を生み出します。

これは、我々が関係する児ポ法関連の問題と類似で、要するに官僚の役割というのは、経済面に限って言えばブレーキでしかありません(善し悪しはさておいて)。

とにかく、必要以上に権力を持たせるべきではないんですよね。
  • 2008-09-29
  • 投稿者 : 鳥山仁
  • URL
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[C750]

人物紹介を中心に読み進めているのですが、
政治関連で基地ピー率が高いように思えるのは
気のせいでしょうか?
  • 2008-10-03
  • 投稿者 :
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  • 編集

[C751] 750さん

気のせいじゃありませんし、それは現在でも変わりません。

私は政治にまったく興味がなかったので、実態を知らなかったのですが、児ポ法関連から首を突っ込んで、政治活動家に占める統合失調症患者や人格障害者の割合があまりにも多くて唖然とさせられました。

同程度に割合が高いグループは、出版業界ぐらいじゃないでしょうか? とにかく、まずは正気な人間を捜すところからスタートしなければならないのには気が滅入ります。
  • 2008-10-04
  • 投稿者 : 鳥山仁
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[C761] 管理人のみ閲覧できます

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  • 2008-10-10
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Author:toriyamazine
東京都出身。
高校在学中にライターとしてデビュー。
以降は編集者・ライター・ゲームディレクター・実写アダルトDVDの監督、そして作家を兼任。
仕事はSMポルノ関係全般で、小説、ゲーム、実写etc、アニメーションを除くすべてのポルノ作品を平行して制作。年間発表数は約6作品前後がコンスタント。
一般作に関しては、別名義、もしくはアンカーマンとしてのみ参加中。

追記・最近になってメールで連絡が取れないという非難が多く聞かれるようになったので、仕事用のアドレスを公開しておきます。
jjnewzine★gmail.com
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