王様を欲しがったカエル

　Ｗ杯観戦の後遺症で仕事がままならず。１ヵ月に及ぶ期間中の観戦数が５０試合近く、１試合当たりの平均観戦時間が２時間半程度なので、総観戦時間は……怖いので計算しない。

　もっとも、Ｗ杯のスケジュールは事前に分かっており、そのために４月から５月にかけて１５０％ぐらいの勢いで原稿を書いたから、現段階で大きな遅延はナシ。原稿も８割方は完成している状況である。ただし、今回の本は通常と作業手順が異なるため、いろいろと手間を喰う上に、内容が例の「恋愛本」が変化したものなので、自分の書いている文章の内容が、本当に正しいかどうかの検証作業がなかなか難しい。

　このブログでは何度も言及しているので耳にタコだろうが、とにかく恋愛・セックス関連の書物というのは電波が飛び交うトンデモ世界である。特に、実技に即していない抽象概念はイコールでファンタジーと言い切っても良い。中でも酷いのがセクシャリティー論だ。

　男性・女性というステレオタイプな分類を自明とする考察（男脳とか女脳とか）が論外であるのは当然として、これに対するカウンター考察もどうにもならないレベルなのはどういうことか……などと言ってはみるけれども、その答えはとうの昔に分かっている。実技が伴っていないのだ。

　セクシャリティが文化や社会環境だと言っても、服装にしろ化粧にしろセックスにしろ、実在する人間が行おうとすれば、そこには必ず実技が伴う。頭の中で延々と妄想をしても実体化はしないからだ。ところが、抽象論で考察を進めようとすれば、これらの技術は抽象化によってスルーされるので、導き出された結論は自動的に現実から遊離する。あまりにも単純すぎて、これ以上の説明をする必要がない。

　一方の実技習得を既に達成した人間は、抽象理論にはほとんど興味を示さない。何故なら、実在する人間が結果を求められている状況では抽象理論など何の役にも立たないからだ。

　このため、両者の会話は永遠にかみ合わない。正確には、抽象概念をこねくり回している連中が、馬脚を現さないために実技から延々と逃げ回る。実際にやってみて失敗したら、嘲笑され、袋だたきにされることが火を見るよりも明らかだからだ。

　たとえば、表現規制推進派が頻繁に持ち出す「性暴力」という抽象概念が典型だが、セックスが下手な男性なり女性なりがセックスをしようとすれば、同意があろうが女性を尊重しようが愛情があろうが、下手だからセックスは暴力にしかならない。当然の話である。それを男性の脳だとか、社会が内包している差別感情だとか、そうした「外部」の問題に還元するのは間違いだ。単にセックスが下手なだけの話を自己正当化するために、延々と理論をこねくり回しても、同意をしてくれるのは同じセックスが下手な人間だけだろう。

　仕事の一環とはいえ、そうした空論を読まされる身にもなって欲しい。たとえば、大学生の男子がＡＶを見て真似をしようとしたら、それが女性差別で暴力だとか聞かされたこちらが、どんな気持ちになるかは想像つくでしょ？　単に、その大学生男子が下手なだけだから。

　ところが、ポルノ嫌いな人間には、これがポルノの悪影響に見える。何故かというと、そいつもセックスが下手だからだ。じゃあ、どうしてセックスが下手な人間がポルノが嫌いなのかというと、その理由はいろいろとあるのだが、最終的には身体操作の理解力に行き着いてしまう。

　と言っても、具体的に説明しなければ分からないだろうから、私としては珍しく１つだけ質問をしてみる。ベッドの上で仰向けに女性が寝ていたとして、右利きの男性はどこに座れば愛撫がし易いだろうか？　答えは各自で考えて欲しい。ちなみに、こんな基本中の基本ですら、ほとんどの真面目な性教育本、ハウ・トゥ・セックス本でも載っていないことは当方で確認済みである。これはリテラシーの問題だろうか？

　セクシャリティー論の異常な点はこの質問だけで説明可能だろう。つまり、実技の下手な人間が、下手くその観点から抽象論を述べることが許されている数少ない（？）ジャンルなのだ。同じことを料理や手芸の本でやっても許されるだろうか？　野球やサッカーの教則本でも許されるだろうか？　ギターやピアノの教則本では？

　身体操作の理解とは、ある一連の動作を時間的・身体的部位に分解して、そのパーツ毎に説明を付け加えられる能力を指す。だから、あるＡＶ作品が暴力的だと説明するためには、どの男優のどの動作が女性にダメージを与えているのかを説明できねばならない。抽象概念は許されるだろうか？