王様を欲しがったカエル
作家・シナリオライター・編集者を兼任する鳥山仁の備忘録です。
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鷹揚な性格の香蘭だが、この「入浴義務」だけは例外だ。彼女はどのような事情があろうとも湯浴みを必ず要求してくるし、また約束を破ることを許さない。 まだ父親が健在だった頃に、ちょっとしたことが原因で転倒して膝を強打してしまい、歩くことさえままならない状況だったにもかかわらず、香蘭が有無を言わせず「風呂に入る」と言い放った時の形相を、十三は未だに忘れる事ができない。彼女の顔の筋肉が生み出した造形は、市...
今、この瞬間も少女の姿をした神は、邪悪な笑みを浮かべながら舌なめずりを始めている。怖気だった十三は反射的に香蘭の指を振り払い、大仰に肩をすくめて会話を断ち切ろうと試みる。「も、もういい。この話は、お仕舞いにしよう」「まあ、急くな。妾も少しずつ思い出しているところだ」「な、何を?」「だから、妾が狂わせたお前の友達についてじゃ」「……矢作さんのことを、思い出したのか?」「いいや。ただ、それより少し後の...
週間連載・ネクロノミコン異聞(1)
第1話 2つの車線を持つアスファルトの道の両側には、緑に包まれた低い山々が連なっていた。山の斜面と道路の間に位置するわずかな平地には、安っぽい瓦を敷いた日本家屋が立ち並んでいる。 団十三は車体の前面に買い物かごが付いた小さなスクーターのアクセルをふかして狭い国道を駆け上り、やがて左側に現れた車一台分の幅しかない細い私道に突入した。初秋の太陽は既に西側へと傾いて、あたりを橙色に照らし始めている。 街...