王様を欲しがったカエル

　鬱スパイラルからまったく脱却できない。締め切り直前なのに最悪の状況である。もっとも、私の場合、鬱と言っても神経症系の方向だから、イライラが募って爆発するパターン。これが恒常化すると「ダーク鳥山」に変身して、相手の感情の起伏が分かっているのに、あえて逆なでするというチキンレースを始めるので、それをやらないように意識を抑制するしかない。要するに、イライラしているのは原稿の筆が進まないからで、その原因は事前の準備不足なので他人を責めるわけにはいかないのだよ。

　こういう時に原稿執筆をしても仕方がないので、サッカー好きの知人と歓談。何で日本はドイツ式のコーチング術に傾倒して失敗するのかという話題になり、日本人は戦前からドイツ人の職人至上主義と精神論に騙されやすいという結論が出る。まあ、普通だったら話はここまででお仕舞い、ってことになるんだろうけど、心の闇ならぬ心の病みが激しい時は関連妄想回路が作動するので、

ドイツに騙される。
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ドイツロマン主義に騙されている日本の作家とか漫画家って結構いるよな。ばーか、ばーか。
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そうえいば、タイトルで怪しいと思ったんだけど、内容がそれ以上で騙されちゃったドイツ映画が何本かあったな。
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ベルリン忠臣蔵とか。
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ドイツチェーンソー大量虐殺とか。
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そういえば、チェーンソーが出てくる有名なホラー映画があったよな。
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テキサス・チェーンソー・マサカーとか。
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女切り裂き狂団チェーンソークイーンとか。いや、アレは有名じゃないか。
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女がチェーンソー持ってるマンガってなかったっけ？
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ゴージャスアイリンの敵役？
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あ、そうだ。『怪物王女』だ。何で今まで読んでなかったんだろう？　買わないと。

……という展開が脳内で行われ、いそいそと『怪物王女』（光永康則）を購入。しかし、タイトルといい想定される内容といい、どう考えても私の好きな一品のはずなのに、何で今まで読んだことがなかったんだろう……と思ったのもつかの間、一巻を読み終わるのに異常な時間がかかる。

　原因はすぐに分かった。頭身である。このマンガは、伝統的（？）な少年漫画のプロポーションをベースにしているので、登場人物の頭身が異常に低いのだ。主人公のヒロは５～５．５頭身、ヒロインの『姫』は６頭身といった感じである。

　頭部の大きさを推定で２１センチとすると、主人公であるヒロの身長は最大でも１１５．５センチ。頭部の大きさが２２センチだった場合でも１２１センチ。ヒロインである『姫』の身長は同様の計算で、１２６センチか１３２センチ。これを文部科学省の平均身長データと比較すると、ヒロの身長に該当する年齢は６～７歳。姫の身長に該当する年齢は８～９歳ということになる。つまり、この作品の標準体型は完全に子供、しかも小学生低学年だから、テーマがどんなに興味深いものでも、ロリコン趣味のない私の食指が動くはずがない。

　そこで、私としてはせっかく好きなテーマを扱っている作品なので、自分なりに愉しみたいと思い、『姫』の身長を１６５センチ程度に脳内変換するのだが、こうなると今度は頭部の大きさが単純計算で２７．５センチに……。これは、もう『姫』と言ってもフィーメールマスクを被った『姫』だよなああああ……となり、仕方がないので『姫』の頭身を７～７．５頭身まで上げたプロポーションを再度脳内変換で作り直して……とやっていると、いつの間にかマンガ一冊を読むのに凄まじい時間がかかるという次第。

　大人がオーセンティックな少年漫画やギャグマンガを読む場合、視覚的な身体感覚が狂っているというか麻痺している状態じゃないと、プロポーションの問題に引っかかって辛い。それでもギャグマンガの場合は「プロポーションもギャグの一環」として割り切って読めなくもないんだけど、シリアスなシーンが入ってきた段階で、頭身の問題を無視して感情移入するためには、前述のような特殊能力というかある種の無感覚が要求される。

　これが、児童ポルノ規制と絡んでいるのは周知の通りで、オタク側は「俺はロリコンじゃない」と思っていても周囲からはロリコン認定される、という感覚のギャップによる差別（？）に繋がってくる。これは、オタク側がキャラクターデザインにおいて、目の形状と大きさに固執するケースが多い事と絡んで、マンガを巡る意思疎通の不全を引き起こしている。つまり、オタク側はデューラーデッサンをベースとする西洋絵画の技法から外れた、目が口よりも大きいキャラクターデザインが批判の対象とされている、と被害妄想を募らせているのに対して、絵画にそれほど興味のない人間が指摘しているのは頭身の低さが呼び起こす違和感というか、正確には小児性愛に対する疑惑だったりするわけだけど、この辺は説明するのが面倒くさいので割愛。

　で、肝心の『怪物王女』の感想は、「漫画やホラー映画からのサンプリングをきっちりやっている良作」というもの。ホラー作品に関しては、過去の名作・迷作が大量にあるのだから、そこから幾らでもサンプルを引っ張ってこれるわけだし、私はこの手の作品を相当数見ているから、元ネタが分かって愉しんで見ることができる。しかも、女王様モノだし文句はございませんよ、はい。