王様を欲しがったカエル

　もちろん、現実はそれほど単純ではなく、痴漢や窃視のような性嗜好異常の持ち主が認知の歪みを抱えているからといって必ずしも犯罪を起こすとは限らず、性衝動の強さや性衝動がアンコントローラブルになるタイミングなど、様々な条件を考慮する必要があります。

　ただ、繰り返しになりますが、こうした性的な嗜好が異常であるという認識は先進諸国では常識となりつつあり、日本では精神科医の杏野丈氏なんかが有名ですので、そちらのサイトにある文献を参考にしてください。

　問題はここからです。痴漢や窃視などの「直接的な性行為を伴わない性行為」を性嗜好異常とする判断は割と古くからあるのに、何故か強姦は相手との同意がない性行為であるにもかかわらず、長期間にわたって性嗜好異常の一種とは認知されてきませんでした。これがどれぐらい長かったかというと、針間克己の説によれば１９９７年あたりまでは、強姦を性嗜好異常とする説を明言した精神科医はほとんどいなかったそうです（間接的に表明している人間は多数存在しました）。

　この問題は意外に根深くて、つい最近の２００３年に自由民主党所属の衆議院議員である太田誠一が、早稲田大学の学生が起こした集団レイプ事件に対して「集団レイプする人は、まだ元気があるからいい」という趣旨の発言をして有権者の支持を失うという事件（？）を引き起こしています。つまり、太田は強姦を「男性の性欲が正常に機能した結果」として受け取っていたわけです。

　このような見解は、女性の諸権利が制限されていた戦前以前には広く信じられていた可能性が高く、そもそも強姦罪が無条件で成立する条件の一つに「被害者が結婚していること」があったぐらいです。要するに、他人（男性）の妻を同意無しで寝取れば強姦、同意があって性行為に及んだ場合は姦通罪という２本立ての構成で、法律が制定されていたんですね。女性の権利なんぞ、まったく考慮されていないのが丸わかりです。

　この傾向は男女平等が法的に認められた戦後にも継続し、強姦罪が成立するためには女性が同意なしのセックスをされるまで、文字通り命をかけて抵抗したという事実がなければ難しい、というトンデモな状況を作り出します。

　これじゃ幾らなんでも女性が怒るのは当たり前で、現在では強姦はセクハラ同様に「やったことより、やった人」というのが社会的に妥当な解釈ということになりつつあるんですが、それでも強姦にはある種の「曖昧さ」がつきまとうわけです。

　その理由は割と明白で、強姦というのは同意の有無を除けば『通常の性行為』と何ら変わりがない点にあります。つまり、性行為に至った過程及びに女性の心情を斟酌しなければ、それが「同意によるセックス」なのか「強姦」なのかは判断不能です。

（続く）