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男性向けマンガ・アニメ・ゲーム・ラノベで学ぶ恋愛=暴力の法則。(2)

 「あしたのジョー」→「リングにかけろ」→「うる星やつら」とほぼ同時期に、別の暴力系ヒロインの系図を作ったのは「ルパン三世・TV版」(1971年)です。こちらのヒロインである峰不二子は、魅力的な肉体を主人公であるルパン三世にちらつかせ、金品をかすめ取った挙げ句セックスはさせないというネグレクト系です。ただし、「ルパン三世」が大ヒットしたのはTV版第2シリーズ(1977年)からで、また原作の「ルパン三世」における不二子の扱いはこのようなものではありません。それ以前に「男性に肉体をちらつかせ金を巻き上げるがセックスはさせない」という手口は夜の商売の女性にしばしば見られるもので、ルパン三世オリジナルというわけでもないのです。

 にもかかわらず、「ルパン三世」には明確な恋愛の要素がありました。それは何故かというと、主人公のルパン三世に超人的なタフネスが備わっていたからです。峰不二子から何度騙されようが危機的状況に陥ろうが、ルパンは飄々とこれらの危機を回避していきます。つまり、この作品にとって、不二子の色仕掛けというのはルパンに降りかかってくるピンチ(暴力)の部分集合という扱いになっています。

 しかし、これだけ無敵の能力を持っている主人公が、不二子の色仕掛け程度のピンチをドキドキとして認識することが可能なのでしょうか? つまり、少年マンガのライバルインフレーション現象と同じ問題が、恋愛=暴力の法則にも発生してしまうわけです。

 この問題にアナーキーな解決法を提示したのは「コブラ」(1978年)でした。主人公のコブラは無敵の宇宙海賊で、ヒロインは彼の相棒の女性型アーマロイド、レディです。コブラとルパン三世は盗賊という点で類似の属性を持つキャラクター(作者の寺沢武一は、コブラのアニメ化の際に、ルパン三世アニメ版のルパンの声優、山田康雄の起用を希望したところからも、コブラがルパンと似た属性、すなわち俳優のジャン=ポール・ベルモンドをイメージしていたことが分かる)ですが、ヒロインの属性は正反対で、レディとコブラの信頼関係は強固で、お互いを裏切る可能性は全くありません。

 それでは、この2人のどこにドキドキ感があるのかというと、レディの元はエメラルダ=サンボーンという王女様で、彼女が死亡する前の記憶をアンドロイドにコピーしたのがレディという設定があるんですね。つまり、この2人は生身の時代は恋人関係だったのに、レディになってからは肉体関係が結べないようになっています。「ルパン三世」の場合は、峰不二子が意図的に「セックスさせない」という設定だったのが、「コブラ」の場合は「不慮の事態によりセックスができない」という風に設定が変化していると言い換えても構いません。

 しかし、この状態に我慢していては宇宙海賊という設定に意味がないわけで、当然のごとくコブラはせっせとナンパに精を出します。じゃあ、ヤリチンのコブラが次から次へと女を引っかけるために、レディが嫉妬したり2人の関係が破壊されてしまうのか……というと、ここからが寺沢先生の凄いところなんですが、コブラと肉体関係を結んだ美女は悉く非業の死を遂げるという、ハイパーミソジニックなストーリーが展開するため、レディは嫉妬する必要がありません。

 恐らく、少年マンガに登場した主人公の中で、コブラほど凄まじいサゲチンはいないでしょう。このような特異なキャラクターが登場したのは、寺沢先生が恋愛を書くことに興味がないのが原因でしょうが、御本人にも自覚があったのか、後期の「コブラ」では主人公であるコブラ自身に「俺と関係を持った女は次々と死んでいく……」という主旨の発言をさせています。もう、滅茶苦茶です。

 ただ、このやり方を他の作家が安易にコピーすることは難しく、「コブラ」で採られた恋愛=暴力の手法は2つに分化していくことになります。すなわち、

1)「セックスができない」という設定を合理的に立てる。
2)部類のタフネスを誇る主人公が、敢えて女性とはセックスをしない理由をつける。

 です。

 前者の先駆となったのが、「ストップ!! ひばりくん!」(1981)です。作者の江口寿史は後にこの作品を「ラブコメに対するアンチテーゼだった」と述懐していますが、本人の意図とは裏腹に、本作は「セックスできないヒロイン」が登場するラブコメのマイルストーンになってしまいました。

 「ストップ!! ひばりくん!」は、主人公の坂本耕作とヒロインの大空ひばりの恋愛関係を主軸とした内容で、耕作はひばりにベタボレされています。しかし、2人が肉体関係を結ぶことはありません。何故なら、ひばりは外見こそ超絶美少女であるにもかかわらず、その中身は立派な男性だからです(しかもヤクザの息子)。

 もう、これ以上の説明は不用でしょう。完璧な設定としか言いようがありません。ゲイやセクシャルマイノリティに対する差別表現に目をつむれば、今でも問題なく通用するだけの普遍性があります。

 ただ、ここで注目しなければならないのは、ひばりが男性だったという設定ではありません。もちろん、それも重要なのですが、それよりも大事なのは坂本耕作が超人的なタフネスを誇る主人公として描かれていないことです。つまり、ネグレクト系暴力女性をヒロインに据える場合、単に「セックスをさせてくれない」という暴力が続くだけなので、主人公が平均的な能力の男性であっても問題はないわけです。

 一方の「タフな男が敢えて女性とセックスしない」を上手く組み込んだ作品の代表として「シティーハンター」(1985)が挙げられます。こちらは新宿を舞台にした殺し屋が主人公のハードボイルドストーリーだったものが、連載初期の不人気が原因で徐々にラブコメタッチにスライドしたという経緯を持っています。

 「シティハンター」の主人公は冴羽獠。元傭兵の凄腕スイーパーで、希代の色情狂。その狂いっぷりは、美女を見ただけで勃起(少年誌なので直接表現は避けられ、「もっこり」という言葉が使われた)してしまい、見境なく女性と関係を持ち、しかも下着泥棒の常習者と、書いていて男性の私が「ちょっとどうよ?」と思うほどです。

 一方のヒロインは、化粧気のないボーイッシュな美女、槇村香。冴羽獠の元相棒の妹で、獠は彼女の保護者的な立場を気取ることになります。そして、コンビを組んで仕事をこなす過程で、彼は香に対して「香をこれから女とは思わない」と宣言し、それ以降は彼女に情欲をぶつけなくなります。

 この設定が、路線変更の際に生かされます。つまり、獠が依頼主の美女に欲情し、彼女を襲おうとすると、香が暴力を振るって(作中では天誅と呼ばれていた)これを阻止するというルーチンができあがるのです。

 香の獠に対する阻止行動は常軌を逸したもので、私が記憶しているだけでも100tハンマーで殴打、モーニングスターで殴打、手榴弾で爆破、貞操帯を装着と、とりあえず読者が喜びそうなことを全部やってくれます。これで人気が出ないわけがなく、目出度く「シティハンター」はアニメ化にまでこぎ着けています。当然でしょう。

 ここだけを見ると「シティハンター」は「うる星やつら」で確立したルーチンを上手く利用している事が分かります。ただし、大きく違うのは「うる星やつら」では、単に女性の方が男性よりも強いという設定だったのが、「シティハンター」では男性側が「敢えてセックスしない」というストイシズムを特定の女性に発揮して、肉体関係に至らないと言う味付けがなされている事です。

 この「敢えて」と「ストイシズム」は男性読者の共感を引き起こすのに大変重要な要素で、これを上手く活かすと恋愛が苦手という作者も恋愛モノが描けるという優れものです。この点については、少し時間を遡って説明をしていきたいと思います。

 ここで覚えておかなければならないのは、「ルパン三世」「コブラ」「シティハンター」がいずれも裏社会に生きるハードボイルドタッチの主人公に恋愛の要素を絡ませているという作品だという事実で、ここでも男性向け作品に於いて恋愛体質=超人的なタフネスという設定が重要であることが分かります。

13件のコメント

[C4176]

私が間違っていなければ、コブラのレディの正体が明らかになるのは人気が下火に
なった終盤(少年ジャンプ連載時の)で、アニメ化されたりと最も勢いのあった頃は、
読者(私や周囲)の認識ではレディは単なるアシスタントロボットであって、
性的な匂い(コブラとの関係においても)を感じさせる対象ではありませんでした。
(それこそハンソロに対するチューバッカ、ルークに対するR2-D2程度の認識)
次々出てくる人間女性キャラには皆、興奮させられまくっていたのですが。
  • 2010-08-31
  • 投稿者 :
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[C4177] 4176さん

いや、その認識で合ってますよ。
だから、コブラは特殊な作品で、レディは嫉妬しないと書いてるじゃないですか。性的な臭いを感じないのはむしろ当然で、これは私も一緒です。
  • 2010-08-31
  • 投稿者 : 鳥山仁
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[C4179]

ネグレクト系ヒロインといえば、子供向けでもドキンちゃんとか
しずかちゃんとかいますね
西原理恵子の人生画力対決で、やなせたかしが、ドキンちゃんの
モデルはスカーレット・オハラだと言っておりました
  • 2010-09-04
  • 投稿者 :
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[C4180]

「男はつらいよ」はよく出来たラブコメ。
  • 2010-09-04
  • 投稿者 :
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[C4182] 4179さん

藤子Fは××の要素が入っているのでビミョーですが、やなせたかしは確信犯じゃないですか? 妹のコキンもそうですが「これ、子供に見せて良いんだ?」レベルです。
  • 2010-09-05
  • 投稿者 : 鳥山仁
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[C4183] 4180さん

大正解。無法松の一生もね!
  • 2010-09-05
  • 投稿者 : 鳥山仁
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[C4184]

××=ペ○?w
とはいえ、子供に毒を与えないようにする教育がいいとも思えないというか。
私の子供の頃には、普通におこもさんがいましたしね。
ア○パンマンは、そういう意味でワクチンみたいなモノではないかと。
私らも似たようなモノの洗礼を受けてた気がしますしw
  • 2010-09-07
  • 投稿者 : 寛
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[C4185] 寛さん

「藤子・f・不二雄 SM」で検索してみて下さい(笑)
子供に毒を与えるかどうかは相手次第じゃないかと思います。嫌いなモノを見せても、かえって反感が募るだけじゃないですか? 勉強が嫌いというケースもありますが。
  • 2010-09-10
  • 投稿者 : 鳥山仁
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[C4188]

GPUのページが見れません。どうしたのでしょうか。
  • 2010-09-10
  • 投稿者 : 駒田少佐
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[C4191] 駒田少佐さん

ホントだ。
15日の締め切りが終わったら、管理人に問い合わせをします。
冗談抜きで殺人スケジュールなので、対応が遅れて申し訳ありません。
  • 2010-09-12
  • 投稿者 : 鳥山仁
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[C4192]

WORKING!!の伊波 まひるは極度の男性恐怖症で主人公を殴ってしまうという設定です。

http://ja.wikipedia.org/wiki/WORKING!!#.E3.83.AF.E3.82.B0.E3.83.8A.E3.83.AA.E3.82.A2.E3.82.B9.E3.82.BF.E3.83.83.E3.83.95
  • 2010-09-12
  • 投稿者 :
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[C4226]

鳥山先生、「えむえむっ!」はご覧になりましたか?
  • 2010-10-10
  • 投稿者 :
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[C4229] 4226さん

アニメ版の方ですよね? 見ました。
パンツを見せない演出で最後までいって欲しいところですね。
原作の方は、MF文庫編集部がゼロの使い魔で当てた経験が活きていると思います。ちゃんとツボを押さえてますよね。
  • 2010-10-12
  • 投稿者 : 鳥山仁
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toriyamazine

Author:toriyamazine
東京都出身。
高校在学中にライターとしてデビュー。
以降は編集者・ライター・ゲームディレクター・実写アダルトDVDの監督、そして作家を兼任。
仕事はSMポルノ関係全般で、小説、ゲーム、実写etc、アニメーションを除くすべてのポルノ作品を平行して制作。年間発表数は約6作品前後がコンスタント。
一般作に関しては、別名義、もしくはアンカーマンとしてのみ参加中。

追記・最近になってメールで連絡が取れないという非難が多く聞かれるようになったので、仕事用のアドレスを公開しておきます。
jjnewzine★gmail.com
です。★マークを@に変えて使ってね。

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