王様を欲しがったカエル
作家・シナリオライター・編集者を兼任する鳥山仁の備忘録です。
Entries
ようやっと入稿完了。今回ばかりは死ぬかと思った。編集業務を始めてから、これだけ仕事を遅らせたのは初めての経験なので、脳へのダメージも甚大。案の定、製版所からは色校が2日遅れるとの連絡が。まったくもって、オペレーターの人達には申し訳ないことを……。
で、入稿も終わって脱力していると、先々日の日記で書いたライター氏から再度連絡が。しかしというか、やはりというか話はかみ合わない。私が何度「オタクの基本はサンプリングだよ」と言っても理解できない模様。
前にも述べたことだが、オタク的創作物には集めたサンプルを分類して並べていくデータベース型と、集めたサンプルの整合性を無視して組み合わせることによって生じるギャップを愉しむパロディ型が存在し、これはコインの裏表の関係に過ぎない。
たとえば、『日本アニメ50年史』のように、「日本で製作されたアニメーション」という縛りを設けてサンプルを並べていく方法が前者なのに対して、今や定番と化した『戦闘美少女』系の作品は『メカ・兵器』というサンプルと、『美少女』というサンプルをミックスさせることによって生じるギャップを面白がる、後者の典型とも言える創作物だ。当然、後者の創作物を分類しようという試みは無駄である。何故なら、それらの創作物のキモが複数のジャンルから取り出した要素を「組み合わせている」点にあるからだ。分類してしまった段階で、この「組み合わせの妙」は死ぬ。
たとえば、ヒロインの造形を巨乳+猫顔+気まぐれな性格にするのか、巨乳+タヌキ顔+優しいお姉さん系にするのかは意味がまったく違うが、サンプルである『巨乳』は一緒。そこで、サンプルの共通性から「どっちも巨乳ですよね?」と訊かれると「そうだけど、違う」としか答えられなくなる。
また、これはオタク的かどうかに限らず、パロール(模倣)をベースとした作品は、元ネタを知らない読者の前では意味が変質する。たとえば、私とサブディレクターの年齢には10歳の開きがあり、私はHM/HR系の音楽が大好きだが、彼はまったく興味がない。そこで、二人が萩原一至の『BASTARD!!』を読むと、意味がまったく変わってしまう。私はタイトルからして大ツボ(説明すると、THE BASTARDはイギリスのハードロックバンド、Motörheadがデビュー前に付けていたグループ名。あんまり酷い名前なので改名された。萩原は、後にMotörheadのロゴをそのまんま作中に登場させて怒られる)で、他にもそっち系のバンド名満載の漫画として受け取るが、彼にはそうしたネタはどうでも良く、単なるエロティックファンタジー漫画としか受け取らない。また、私と同世代のオタクでも、HR/HMに興味がなければサブディレクターと同じ反応になる。
オタク的な創作物を説明する難しさ、オタク的な作品の評論がことごとく失敗する理由は、この辺にある。受け取り方にこれだけ開きがあると、作品を意味性で追求しても意味がないのだ。正直言うと「分かるヤツだけが分かればいいでしょ?」って事になる。ただ、これも「ネタ的に」という意味であって「意味的に」という意味じゃない。
状況を更に混乱させるのはネタの処理方法で、「ネタが分かる形で処理する」か「分からない形で処理するか」で、曖昧な派閥がある。1つの作品に2つのパターンがミックスされているケースも多く、こうなってくると、もう誰にも手が付けられない。
で、これを説明しているウチに、分かりやすい例があったよなと思い立って、ライター氏にyoutubeで『ピエール瀧の体操30歳』を見てもらう。ピエールは年代的に第二世代のオタクに属し、ナゴムレコード(ここ出身のアーティストで、オタク層に最もフィットしたのは、筋肉少女帯の大槻ケンヂだろう)から『人生』名義でレコードを出していた当時から芸風が変わっていないという意味で貴重な存在。しかし、これを視聴したライター氏から「分かりません」という返答が来る。
何だと!? ピエール綾波の素晴らしさが分からないって言うのか! あれが本当の綾波だ!(←オタク的言説)
で、入稿も終わって脱力していると、先々日の日記で書いたライター氏から再度連絡が。しかしというか、やはりというか話はかみ合わない。私が何度「オタクの基本はサンプリングだよ」と言っても理解できない模様。
前にも述べたことだが、オタク的創作物には集めたサンプルを分類して並べていくデータベース型と、集めたサンプルの整合性を無視して組み合わせることによって生じるギャップを愉しむパロディ型が存在し、これはコインの裏表の関係に過ぎない。
たとえば、『日本アニメ50年史』のように、「日本で製作されたアニメーション」という縛りを設けてサンプルを並べていく方法が前者なのに対して、今や定番と化した『戦闘美少女』系の作品は『メカ・兵器』というサンプルと、『美少女』というサンプルをミックスさせることによって生じるギャップを面白がる、後者の典型とも言える創作物だ。当然、後者の創作物を分類しようという試みは無駄である。何故なら、それらの創作物のキモが複数のジャンルから取り出した要素を「組み合わせている」点にあるからだ。分類してしまった段階で、この「組み合わせの妙」は死ぬ。
たとえば、ヒロインの造形を巨乳+猫顔+気まぐれな性格にするのか、巨乳+タヌキ顔+優しいお姉さん系にするのかは意味がまったく違うが、サンプルである『巨乳』は一緒。そこで、サンプルの共通性から「どっちも巨乳ですよね?」と訊かれると「そうだけど、違う」としか答えられなくなる。
また、これはオタク的かどうかに限らず、パロール(模倣)をベースとした作品は、元ネタを知らない読者の前では意味が変質する。たとえば、私とサブディレクターの年齢には10歳の開きがあり、私はHM/HR系の音楽が大好きだが、彼はまったく興味がない。そこで、二人が萩原一至の『BASTARD!!』を読むと、意味がまったく変わってしまう。私はタイトルからして大ツボ(説明すると、THE BASTARDはイギリスのハードロックバンド、Motörheadがデビュー前に付けていたグループ名。あんまり酷い名前なので改名された。萩原は、後にMotörheadのロゴをそのまんま作中に登場させて怒られる)で、他にもそっち系のバンド名満載の漫画として受け取るが、彼にはそうしたネタはどうでも良く、単なるエロティックファンタジー漫画としか受け取らない。また、私と同世代のオタクでも、HR/HMに興味がなければサブディレクターと同じ反応になる。
オタク的な創作物を説明する難しさ、オタク的な作品の評論がことごとく失敗する理由は、この辺にある。受け取り方にこれだけ開きがあると、作品を意味性で追求しても意味がないのだ。正直言うと「分かるヤツだけが分かればいいでしょ?」って事になる。ただ、これも「ネタ的に」という意味であって「意味的に」という意味じゃない。
状況を更に混乱させるのはネタの処理方法で、「ネタが分かる形で処理する」か「分からない形で処理するか」で、曖昧な派閥がある。1つの作品に2つのパターンがミックスされているケースも多く、こうなってくると、もう誰にも手が付けられない。
で、これを説明しているウチに、分かりやすい例があったよなと思い立って、ライター氏にyoutubeで『ピエール瀧の体操30歳』を見てもらう。ピエールは年代的に第二世代のオタクに属し、ナゴムレコード(ここ出身のアーティストで、オタク層に最もフィットしたのは、筋肉少女帯の大槻ケンヂだろう)から『人生』名義でレコードを出していた当時から芸風が変わっていないという意味で貴重な存在。しかし、これを視聴したライター氏から「分かりません」という返答が来る。
何だと!? ピエール綾波の素晴らしさが分からないって言うのか! あれが本当の綾波だ!(←オタク的言説)
11件のコメント
[C94]
なんですとー、分かりやすい例というならこれを挙げなければならないでしょう。
なんたって作者自身があとがきでそう書いてますよ!
ttp://www.jbook.co.jp/p/p.aspx/1104562/s/~allprd
なんたって作者自身があとがきでそう書いてますよ!
ttp://www.jbook.co.jp/p/p.aspx/1104562/s/~allprd
- 2007-12-07
- 編集
[C95]
過日、DTM野郎の友人を訪れてみたら、案の定というか、初音ミクに洗脳されてました。
ああ、かつては硬派なプログレ野郎だったのに……。
さておき、その友人の講釈を長々と受けたのをきっかけに、
ここのところニコニコ界隈を散策してますが、まあ、やっぱりパロディのてんこ盛りですな。
初音近辺には、完全オリジナル曲を発表する人も沢山いますが、
オタクワールドでこういう人々は確かに「神」なのかも知れません。
この近辺の関心事は、第2弾である鏡音ステレオ姉弟のアイテムを、
「ミカン」にするか「バナナ」にするか、
はたまた「ロードローラー」にするかという事なんだそうですが、
これなんて、元ネタを知っているか知らないか、
ぶっちゃけ「ジョジョ」をリアルタイムで読んだかどうかで、全く反応が違ってしまうでしょうね。
尚、初音周辺を何気なく散策してたら、
全く予想外にカマヤンさんのテキストにぶち当たってしまい、鼻血が出そうになりました。
少なくとも、私にはこの曲↓が、成長ホルモン問題について述べる事を目的としたとは思えません。
ttp://www.youtube.com/watch?v=6zO7hPe7NJ0
ああ、かつては硬派なプログレ野郎だったのに……。
さておき、その友人の講釈を長々と受けたのをきっかけに、
ここのところニコニコ界隈を散策してますが、まあ、やっぱりパロディのてんこ盛りですな。
初音近辺には、完全オリジナル曲を発表する人も沢山いますが、
オタクワールドでこういう人々は確かに「神」なのかも知れません。
この近辺の関心事は、第2弾である鏡音ステレオ姉弟のアイテムを、
「ミカン」にするか「バナナ」にするか、
はたまた「ロードローラー」にするかという事なんだそうですが、
これなんて、元ネタを知っているか知らないか、
ぶっちゃけ「ジョジョ」をリアルタイムで読んだかどうかで、全く反応が違ってしまうでしょうね。
尚、初音周辺を何気なく散策してたら、
全く予想外にカマヤンさんのテキストにぶち当たってしまい、鼻血が出そうになりました。
少なくとも、私にはこの曲↓が、成長ホルモン問題について述べる事を目的としたとは思えません。
ttp://www.youtube.com/watch?v=6zO7hPe7NJ0
- 2007-12-08
- 編集
[C97]
m_m1941さん
いや、単に「映画を見ている」がハッタリだっただけなんじゃないでしょうか………。
というか、ウチらの年代だとスプラッターとイタリアンホラー、トロマ好きじゃないとマニアックなネタについて行くのは不可能じゃないですかね? あ、後はロシアSF映画の系譜に、ホドロフスキーもか。
映画、興味ないからあんまり覚えてないなぁ………
いや、単に「映画を見ている」がハッタリだっただけなんじゃないでしょうか………。
というか、ウチらの年代だとスプラッターとイタリアンホラー、トロマ好きじゃないとマニアックなネタについて行くのは不可能じゃないですかね? あ、後はロシアSF映画の系譜に、ホドロフスキーもか。
映画、興味ないからあんまり覚えてないなぁ………
- 2007-12-10
- 編集
[C98]
Anchangさん
懐かしー。今から13年前ですか。
自分の全文書をひっくり返さないとわかんないですけど、たぶん、15年ぐらい前から同じこと言ってますね。
自分でも、主張がそれほど変わらないのにはビックリです。まあ、何度見ても同じなんでしょう。
懐かしー。今から13年前ですか。
自分の全文書をひっくり返さないとわかんないですけど、たぶん、15年ぐらい前から同じこと言ってますね。
自分でも、主張がそれほど変わらないのにはビックリです。まあ、何度見ても同じなんでしょう。
- 2007-12-10
- 編集
[C99]
Sevenさん
私はロードローラーに一票で。無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!
それはさておき、初音ミクに関してはよく分かりません。某社でボイスサンプリングに関する意見を聞かれたときに、「ロリコン向けに、猥語を再現できる音声ソフトが出れば売れる」という話しはしましたけど、初音ミクの発売元と違いますから無関係ですね。
まあ、ヒットして何よりですよ。
私はロードローラーに一票で。無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!
それはさておき、初音ミクに関してはよく分かりません。某社でボイスサンプリングに関する意見を聞かれたときに、「ロリコン向けに、猥語を再現できる音声ソフトが出れば売れる」という話しはしましたけど、初音ミクの発売元と違いますから無関係ですね。
まあ、ヒットして何よりですよ。
- 2007-12-10
- 編集
[C100]
Hiさん
被害妄想が強いと前提の段階で間違えるから、後の理論構築がどんなに正しくても結論が現実から乖離するんですよね。
ちなみに、私が製作に関与したゲームが売れない場合はデミウルゴスのせいです。
被害妄想が強いと前提の段階で間違えるから、後の理論構築がどんなに正しくても結論が現実から乖離するんですよね。
ちなみに、私が製作に関与したゲームが売れない場合はデミウルゴスのせいです。
- 2007-12-10
- 編集
[C101]
鳥山さん
それはそうと、私が意識して買った鳥山作品は3冊だけなのですが、他にもあるとか新しいのが出るとかそういう話はないんですか~。
ゲーム作りも大変でしょうが、私最近ゲームやらないもので…(←勝手なことを)
鳥山さんのテキストはいろいろな意味で面白いんですよ。B-MARYさんの商業作品ぐらい長いこと待ってますよ。もう。
それはそうと、私が意識して買った鳥山作品は3冊だけなのですが、他にもあるとか新しいのが出るとかそういう話はないんですか~。
ゲーム作りも大変でしょうが、私最近ゲームやらないもので…(←勝手なことを)
鳥山さんのテキストはいろいろな意味で面白いんですよ。B-MARYさんの商業作品ぐらい長いこと待ってますよ。もう。
- 2007-12-10
- 編集
[C103]
Anchangさん
12月21日に新作出ますよ。緊縛の教則本ですけど。でも、もう教則本は作りません。今度は膝の裏にストレスでアトピーができました。ああいうのは、何というか人に教えるのが好きな人が作るべきですね。no more 教育。
次回作は来年の2月29日で、こっちは小説込みです。ペンネームは、鳥山仁にした方が良いですかね?
12月21日に新作出ますよ。緊縛の教則本ですけど。でも、もう教則本は作りません。今度は膝の裏にストレスでアトピーができました。ああいうのは、何というか人に教えるのが好きな人が作るべきですね。no more 教育。
次回作は来年の2月29日で、こっちは小説込みです。ペンネームは、鳥山仁にした方が良いですかね?
- 2007-12-13
- 編集
[C105]
鳥山さん
>次回作は来年の2月29日で、こっちは小説込みです。ペンネームは、鳥山仁にした方が良いですかね
そうしていただけると助かります。他の名義でこんなのも書いてるよん てのがあればこっそり教えていただけるとなお助かります^^
>次回作は来年の2月29日で、こっちは小説込みです。ペンネームは、鳥山仁にした方が良いですかね
そうしていただけると助かります。他の名義でこんなのも書いてるよん てのがあればこっそり教えていただけるとなお助かります^^
- 2007-12-13
- 編集
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