王様を欲しがったカエル
作家・シナリオライター・編集者を兼任する鳥山仁の備忘録です。
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明治中期から末期に掛けて、既婚女性の派手な化粧が批判の対象となったことは、前回書いたとおりですが、これは江戸期の化粧に関する常識とはかけ離れたものでした。何故なら、西洋人から「キモい」と批判されたお歯黒は結婚を、引眉は出産を意味するものだったからです(特に武士階級)。すなわち、これらの化粧は少女が大人になった証であり、少しでも有利な条件で結婚するという、明治期の化粧とは意味がかなり異なっていました。
そしてこれを裏返すと、江戸期にはしてもしなくても良かった少女の化粧が、明治期にはモラルの一種として確立していたことを意味します。つまり、化粧をしていない少女は礼法にも結婚にも興味のない不良、アウトサイダーとして批判の対象となったのです。
ただし、化粧法そのものは江戸期のものがそのまま継続していたわけではなく、一般市民の間にも洋装が普及するに連れて、西洋風(あくまでも風です)の化粧法が確立していきます。特に一九二三年(大正一二年)に起こった関東大震災以降、洋装が災害時の避難や屋外活動に適していることが分かった後は、西洋風メイクが既存の化粧法を凌駕したとされています。特に大きな変化は、引眉が廃れたことと西洋人に憧れて目を強調する化粧法が盛んになったことで、これは大正期のイラストと浮世絵を比較するとデフォルメをされている分だけ明確に理解できます。
この傾向は昭和に入ってからも継続し、それどころか一九三一年に始まった満州事変を初めとする、一連の中国における戦乱期には洋風化粧ブームは最盛期に達します。で、ここからがようやく本題なんですが、日本が社会主義化を本格的に開始したのが一九三〇年代中期で、これはソ連の統制経済を模倣したものでした。でも、まだこの時期には化粧=悪という価値観は成立していません。
変化が現れるのは一九三八年(昭和一三年)に告知された『パーマネント自粛通達』からで、これによって事実上パーマは禁止されてしまいます。理由は燃料の無駄な消費と、パーマが「日本人らしくない」からというものでした。つまり、化粧=悪の端緒はナショナリズム(国粋主義)とレイシズム(人種差別主義)というお決まりのパターンです。ただし、化粧そのものはまだ悪とされていません。
続いて一九四一年(昭和一六年)には『昭和国民礼法』が発布。これには「人前で化粧直しをするな」と書かれています。でも、同じ法律には「婦人は身だしなみ程度の化粧は必要」と、化粧の必要性を肯定する文言も書かれています。
じゃあ、どこから化粧=悪になったのかというと……
(続く)
そしてこれを裏返すと、江戸期にはしてもしなくても良かった少女の化粧が、明治期にはモラルの一種として確立していたことを意味します。つまり、化粧をしていない少女は礼法にも結婚にも興味のない不良、アウトサイダーとして批判の対象となったのです。
ただし、化粧法そのものは江戸期のものがそのまま継続していたわけではなく、一般市民の間にも洋装が普及するに連れて、西洋風(あくまでも風です)の化粧法が確立していきます。特に一九二三年(大正一二年)に起こった関東大震災以降、洋装が災害時の避難や屋外活動に適していることが分かった後は、西洋風メイクが既存の化粧法を凌駕したとされています。特に大きな変化は、引眉が廃れたことと西洋人に憧れて目を強調する化粧法が盛んになったことで、これは大正期のイラストと浮世絵を比較するとデフォルメをされている分だけ明確に理解できます。
この傾向は昭和に入ってからも継続し、それどころか一九三一年に始まった満州事変を初めとする、一連の中国における戦乱期には洋風化粧ブームは最盛期に達します。で、ここからがようやく本題なんですが、日本が社会主義化を本格的に開始したのが一九三〇年代中期で、これはソ連の統制経済を模倣したものでした。でも、まだこの時期には化粧=悪という価値観は成立していません。
変化が現れるのは一九三八年(昭和一三年)に告知された『パーマネント自粛通達』からで、これによって事実上パーマは禁止されてしまいます。理由は燃料の無駄な消費と、パーマが「日本人らしくない」からというものでした。つまり、化粧=悪の端緒はナショナリズム(国粋主義)とレイシズム(人種差別主義)というお決まりのパターンです。ただし、化粧そのものはまだ悪とされていません。
続いて一九四一年(昭和一六年)には『昭和国民礼法』が発布。これには「人前で化粧直しをするな」と書かれています。でも、同じ法律には「婦人は身だしなみ程度の化粧は必要」と、化粧の必要性を肯定する文言も書かれています。
じゃあ、どこから化粧=悪になったのかというと……
(続く)
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