王様を欲しがったカエル
作家・シナリオライター・編集者を兼任する鳥山仁の備忘録です。
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TRPG用小説(3)
- ジャンル : 小説・文学
- スレッドテーマ : ファンタジー小説全般
ナシルは精霊に群がられたまま道を這いずり、一歩でも村へ近づこうとした。黒い小さな点は、やがて小さな男の子を嬲ることに対する興味を失ったかのように、彼の前から一斉に姿を消した。
ナシルはしばらくの間、わけも分からずその場にへたりこんでいた。おそるおそる周囲を見回してみても、精霊の気配はまったくしなかった。
森の中にいたあれは何だったのだろう? どうして、あれには大量の精霊が群がっていたのだろう? どうして、あの精霊達は自分に襲いかかってきたのだろう? どうして、あの精霊達は自分から去っていったのだろう?
そもそも、精霊を扱うことができるのは精霊騎士だけではないのか? しかし、仮にあれが騎士だったとしたら、どうして自分に声をかけなかったのか? 何よりも引っかかるのは、森の入り口にいたことだ。どうして、そこから村までやって来ようとしないのか?
ナシルはそこでようやく冷静さを取り戻し、痛みを感じだした肘を反対側の手のひらで押さえながら、小走りで自宅に舞い戻った。新しい村の多くは国境沿いにあり、そのほとんどが比較的小高い丘を丸太で組んだ簡易の馬防柵で囲った場所に作られる。ナシルの村も例外ではなく、低い丘陵の斜面に生えていた樹木は牧草に植え替えられ、平地は畑として耕され、森は人為的に人家から遠ざけられている。野盗や領主達から契約を切られた傭兵団、国境を越えてくる敵兵の襲撃から身を守るためだ。
深い森は移動には不便だが、武装した集団を隠すのにうってつけの場所だ。ナシルも父親から森の危険性について執拗に教えられた。森に隠れた弓兵から狙撃されたら、矢の届かない場所まで逃げるしかない。森の入り口で人影を見たら、深入りは禁物だ。すぐに大人を呼べ。友好的な相手なら、道を歩いて村までやって来るはずだ。
ナシルは父親に教えられた通り、森に潜む不審者の存在を村人に告げようとした。しかし、彼が最初に見つけた大人の男性は、牧草地に仰向けに転がって両手両脚を痙攣させていた。男性の目、耳、口中には、ナシルを襲った黒い精霊達がびっしりとつまっていて、肉穴の中でわさわさと蠢いていた。
ナシルは悲鳴をあげながら牧草地を駆け上った。夏の暑い日差しが真上から降り注いでいたにもかかわらず、少年の全身は悪寒に震えていた。低い背丈を利用して馬防柵をくぐり抜けたナシルが目にしたのは、しんと静まりかえった村の光景だった。十数棟ある質素な石積みの家からは、誰の声も聞こえず、人影も見あたらない。
ナシルは声を殺し、村の様子をうかがった。肘の擦り傷からしたたる赤黒い血が、緑色の雑草に垂れた。
村を構成する家々は、馬防柵から少し離れた場所で円を描くように建てられていた。これも野盗対策の一環で、家の壁を投石や弓矢から身を守る防壁として利用しようという目論見があった。村の中央には共同で作業が出来る広場が設けられ、その端には井戸が掘られていた。ナシルは足音を立てないように石壁づたいに歩き、広場を視認しようと家と家の隙間からこっそり顔をのぞかせた。
円形の広場にも人の気配は感じられなかった。放し飼いになっている鶏が、地面をつついている姿を目にすることができただけだった。もうすぐ昼食の時間だというのに人気がない村の広場など、ナシルには考えられなかった。牧草地に倒れていた村人の無惨な姿が、少年の脳裏に蘇った。
ナシルはしばらくの間、わけも分からずその場にへたりこんでいた。おそるおそる周囲を見回してみても、精霊の気配はまったくしなかった。
森の中にいたあれは何だったのだろう? どうして、あれには大量の精霊が群がっていたのだろう? どうして、あの精霊達は自分に襲いかかってきたのだろう? どうして、あの精霊達は自分から去っていったのだろう?
そもそも、精霊を扱うことができるのは精霊騎士だけではないのか? しかし、仮にあれが騎士だったとしたら、どうして自分に声をかけなかったのか? 何よりも引っかかるのは、森の入り口にいたことだ。どうして、そこから村までやって来ようとしないのか?
ナシルはそこでようやく冷静さを取り戻し、痛みを感じだした肘を反対側の手のひらで押さえながら、小走りで自宅に舞い戻った。新しい村の多くは国境沿いにあり、そのほとんどが比較的小高い丘を丸太で組んだ簡易の馬防柵で囲った場所に作られる。ナシルの村も例外ではなく、低い丘陵の斜面に生えていた樹木は牧草に植え替えられ、平地は畑として耕され、森は人為的に人家から遠ざけられている。野盗や領主達から契約を切られた傭兵団、国境を越えてくる敵兵の襲撃から身を守るためだ。
深い森は移動には不便だが、武装した集団を隠すのにうってつけの場所だ。ナシルも父親から森の危険性について執拗に教えられた。森に隠れた弓兵から狙撃されたら、矢の届かない場所まで逃げるしかない。森の入り口で人影を見たら、深入りは禁物だ。すぐに大人を呼べ。友好的な相手なら、道を歩いて村までやって来るはずだ。
ナシルは父親に教えられた通り、森に潜む不審者の存在を村人に告げようとした。しかし、彼が最初に見つけた大人の男性は、牧草地に仰向けに転がって両手両脚を痙攣させていた。男性の目、耳、口中には、ナシルを襲った黒い精霊達がびっしりとつまっていて、肉穴の中でわさわさと蠢いていた。
ナシルは悲鳴をあげながら牧草地を駆け上った。夏の暑い日差しが真上から降り注いでいたにもかかわらず、少年の全身は悪寒に震えていた。低い背丈を利用して馬防柵をくぐり抜けたナシルが目にしたのは、しんと静まりかえった村の光景だった。十数棟ある質素な石積みの家からは、誰の声も聞こえず、人影も見あたらない。
ナシルは声を殺し、村の様子をうかがった。肘の擦り傷からしたたる赤黒い血が、緑色の雑草に垂れた。
村を構成する家々は、馬防柵から少し離れた場所で円を描くように建てられていた。これも野盗対策の一環で、家の壁を投石や弓矢から身を守る防壁として利用しようという目論見があった。村の中央には共同で作業が出来る広場が設けられ、その端には井戸が掘られていた。ナシルは足音を立てないように石壁づたいに歩き、広場を視認しようと家と家の隙間からこっそり顔をのぞかせた。
円形の広場にも人の気配は感じられなかった。放し飼いになっている鶏が、地面をつついている姿を目にすることができただけだった。もうすぐ昼食の時間だというのに人気がない村の広場など、ナシルには考えられなかった。牧草地に倒れていた村人の無惨な姿が、少年の脳裏に蘇った。
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