王様を欲しがったカエル
作家・シナリオライター・編集者を兼任する鳥山仁の備忘録です。
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TRPG用小説(5)
- ジャンル : 小説・文学
- スレッドテーマ : ファンタジー小説全般
男から発している禍々しい感じは、森の入り口で大量の黒い精霊にたかられていた「あれ」とよく似ている。だとするなら、この男は黒い精霊達と共に村に災厄をもたらしに訪れたのではないか? たった今、目にしただけでも2軒隣の家の家長と、自分の両親が黒い精霊にたかられて死にかかっているではないか。
ところが、この男は「自分を助けに来た」と言っている。そうすると、この男は村が精霊に襲われているところで加勢をしに来てくれたのではないか? しかし、だとするなら、どうしてここまで「あれ」と雰囲気が似ているのだろう?
「父さんと母さんが、大変なんだ!」
少年は黒衣の修道士から慎重に距離をおきつつ、母親の身に起こった惨状を訴えた。
「変な精霊にたかられてる! 見たこともない、黒いヤツだ!」
やせこけた男は、必死の形相になっているナシルを不思議そうな面持ちで見つめ、ゆっくりと首を振った。
「だから、私は君を助けに来たと言っている」
「だったら、父さんと母さんを助けてくれ! 他の村の人も!」
「君は精霊が見えるな?」
「見えるよ! 見たこともない黒いヤツが……」
「だったら、何故私の話が分からない?」
「……あんた、何言ってるんだ?」
「同じことを繰り返させるな。私は君を助けに来たのだ。劣った人間共から」
「劣ったって………………」
「君を解放しに来た」
「あんたの言ってることが、全然分からない」
「分かるはずだ。君は精霊を感じることが出来る。だが、他の人間は違う」
「だから、何なんだ?」
「君は神から選ばれた存在だと言うことだ」
「………………」
「何故、黙る?」
「あんたの話が分からないからだよ。僕が助けて欲しいのは、父さんと母さんで僕じゃない」
「違う。私が助けに来たのは君だ。愚かな人間共と暮らしている君を助けに来たのだ」
黒衣の男は、そう言って右腕を振った。すると、四方八方から黒い小さな精霊が集まって、見る間に男の腕を覆い尽くす。
ナシルは背後に飛び退り、家の石壁に背中を押し当てた、男の右腕は今や黒く太いツタ状の植物のようになり、手先から伸びた先端が地面でとぐろを巻いていた。
「あんたが……この村を襲ったんだな?」
「君に気付くチャンスを与えたかった」
「気付くチャンス?」
「そうだ。自分より劣った人間と生活することの愚かさだ」
「父さんと母さんに何をした!」
「殺した。頭の中に精霊を送り込んで、ぐちゃぐちゃにかき回してやった。二人とも劣った人間のくせに、君のような優れた存在を使役していた罪だ」
「ふざけるな!」
「ふざけていない。本気だとも」
男は血走った目でナシルを見回した後で、初めて目を閉じて長いため息をついた。
「残念だ。子供というのは純真で、すぐ真実に気付くものだが、どうやら君は世俗の慣習に毒されてしまったらしい」
「何言ってるんだ! あんたは……」
「君は正しいと思われる行為を疑う必要がある。たとえば、両親を大切にするとか」
「そんなの、当たり前じゃないか!」
「当たり前ではない。親が劣った存在であれば、子には親を否定する権利がある」
「あんたは、僕の父さんと母さんを殺したんだぞ!」
「君を解放しようと思ったのだ。親からも、世俗の因習からも」
男は再び両目を開き、精霊に包まれた右腕を力強く振った。ツタ状に集まった精霊は鞭のようにしなり、ナシルをめがけて飛んでくる。少年はとっさに身をかがめたが、鞭の先端は容易に高さを変えて地面すれすれにのたうった。ナシルがあっと思った時には、彼の左足首は精霊が集まって出来たツタに巻きつかれた後だった。
ところが、この男は「自分を助けに来た」と言っている。そうすると、この男は村が精霊に襲われているところで加勢をしに来てくれたのではないか? しかし、だとするなら、どうしてここまで「あれ」と雰囲気が似ているのだろう?
「父さんと母さんが、大変なんだ!」
少年は黒衣の修道士から慎重に距離をおきつつ、母親の身に起こった惨状を訴えた。
「変な精霊にたかられてる! 見たこともない、黒いヤツだ!」
やせこけた男は、必死の形相になっているナシルを不思議そうな面持ちで見つめ、ゆっくりと首を振った。
「だから、私は君を助けに来たと言っている」
「だったら、父さんと母さんを助けてくれ! 他の村の人も!」
「君は精霊が見えるな?」
「見えるよ! 見たこともない黒いヤツが……」
「だったら、何故私の話が分からない?」
「……あんた、何言ってるんだ?」
「同じことを繰り返させるな。私は君を助けに来たのだ。劣った人間共から」
「劣ったって………………」
「君を解放しに来た」
「あんたの言ってることが、全然分からない」
「分かるはずだ。君は精霊を感じることが出来る。だが、他の人間は違う」
「だから、何なんだ?」
「君は神から選ばれた存在だと言うことだ」
「………………」
「何故、黙る?」
「あんたの話が分からないからだよ。僕が助けて欲しいのは、父さんと母さんで僕じゃない」
「違う。私が助けに来たのは君だ。愚かな人間共と暮らしている君を助けに来たのだ」
黒衣の男は、そう言って右腕を振った。すると、四方八方から黒い小さな精霊が集まって、見る間に男の腕を覆い尽くす。
ナシルは背後に飛び退り、家の石壁に背中を押し当てた、男の右腕は今や黒く太いツタ状の植物のようになり、手先から伸びた先端が地面でとぐろを巻いていた。
「あんたが……この村を襲ったんだな?」
「君に気付くチャンスを与えたかった」
「気付くチャンス?」
「そうだ。自分より劣った人間と生活することの愚かさだ」
「父さんと母さんに何をした!」
「殺した。頭の中に精霊を送り込んで、ぐちゃぐちゃにかき回してやった。二人とも劣った人間のくせに、君のような優れた存在を使役していた罪だ」
「ふざけるな!」
「ふざけていない。本気だとも」
男は血走った目でナシルを見回した後で、初めて目を閉じて長いため息をついた。
「残念だ。子供というのは純真で、すぐ真実に気付くものだが、どうやら君は世俗の慣習に毒されてしまったらしい」
「何言ってるんだ! あんたは……」
「君は正しいと思われる行為を疑う必要がある。たとえば、両親を大切にするとか」
「そんなの、当たり前じゃないか!」
「当たり前ではない。親が劣った存在であれば、子には親を否定する権利がある」
「あんたは、僕の父さんと母さんを殺したんだぞ!」
「君を解放しようと思ったのだ。親からも、世俗の因習からも」
男は再び両目を開き、精霊に包まれた右腕を力強く振った。ツタ状に集まった精霊は鞭のようにしなり、ナシルをめがけて飛んでくる。少年はとっさに身をかがめたが、鞭の先端は容易に高さを変えて地面すれすれにのたうった。ナシルがあっと思った時には、彼の左足首は精霊が集まって出来たツタに巻きつかれた後だった。
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