王様を欲しがったカエル
作家・シナリオライター・編集者を兼任する鳥山仁の備忘録です。
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可愛い魔女・ジニ係数
- ジャンル : 政治・経済
- スレッドテーマ : ワーキングプア(働く貧困層)
本日は秘密会合への出席と、撮影の準備継続。深く静かにパニック気味になってきたので、明日になったらプライオリティの再整理をせねば。
で、今日は先日に予告した(経済)格差社会問題に言及した、ネット上の言説について。この問題に関しては、知り合いの編集者が熱心に書籍を買い集めていたので、何冊か軽く流し読みをさせてもらったのだが、ジニ係数に言及した本があまりにも少なかったので、関心が持てなかった。経済格差を数値的に表現する方法には他に貧困率などがあるが、過去に経済学の徒だった私は、否定的な見解であったとしても、やはりジニ係数について言及された文章でなければ納得がいかない。
で、ジニ係数の名前を久方ぶりに見たのが、厚生労働省が8月24日に発表した「所得再分配調査報告書」。以下は翌日の新聞記事の引用。
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/20070825/20070825_001.shtml
世帯所得示す「ジニ係数」初の0.5超 所得格差が最大 05年 高齢者増など影響
厚生労働省が24日発表した2005年の「所得再分配調査報告書」によると、公的年金などを含まない世帯単位の「当初所得」の「ジニ係数」は過去最大の〇・5263で、初めて〇・5を超えた。報告書は原則として3年に1度まとめられており、これまでは前回02年の〇・4983が最大だった。
ジニ係数は所得分配の格差を示す代表的な指標。全世帯の所得が同額の場合を0(ゼロ)とし、1に近づくほど格差が大きいことを示す。
当初所得の平均は約466万円。前回から45万円減少している中、格差が拡大していることを示した。
厚労省は今回の結果を「(年金収入が多い)高齢者世帯の増加と、世帯の構成人数の減少による影響が約9割」と分析。若者を中心に非正規雇用が増加した影響などは「詳しく分析できない」としている。02年、05年とも小泉内閣の時期だが、格差の拡大傾向はそれ以前にさかのぼる。
一方、当初所得から税金と社会保険料負担額を差し引き、公的年金収入と医療、保育などの社会保障給付を加えた「再分配所得」のジニ係数は0.3873で過去最大だが前回の〇・3812からは微増。厚労省は「1999年の前々回調査からほぼ同じ水準で推移しており、社会保障の再分配機能が効果を上げている」と説明している。
当初所得の平均額約466万円に対し、再分配所得は約550万円。一方、65歳以上の高齢者世帯では当初所得約85万円に対し、再分配所得は約371万円となっている。
■識者談話 貧困層拡大が問題 同志社大の橘木俊詔教授(経済政策)
厚生労働省はジニ係数上昇の要因を「高齢者と単身者の増加のため」と説明して、まるで「格差拡大は統計上の見せ掛け。心配いらない」と言わんばかりだ。しかし、今回の結果は「高齢者と単身者に貧困な人が増えた」ことを意味している。最近は貧富の差の拡大ばかりに焦点が当たっているが、絶対的な貧困者数の増大を深刻に受け止める必要がある。
また、再分配所得のジニ係数を見ても3年前から格差は縮小していない点も重要だ。社会保障と税による所得再分配効果によって格差は是正されている‐と厚労省は主張したいのだろうが、他国との比較抜きでそう言い募っても意味がない。実際には、先進国の中で日本は再分配所得のジニ係数が大きすぎる。これは、手元に残るお金について世帯ごとの不平等度が他国に比べ高く、どれだけ消費できるかの格差が大きいということだ。
(以上、引用)
これを読んだ私は、「わーい、ジニ係数だ」と喜んだ勢いで格差社会を扱ったサイトの文章に目を通していったのだが、やはりジニ係数に関する記述が驚くほど少ない。経済関係のライターや、くだんの編集者に質問をしても、その理由はよく分からないとのこと。まあ、格差社会問題を長年追いかけている人達が分からないものを、にわかの私が分かるはずもないのだが、不思議な現象ではある。
余談になるが、1993年における日本のジニ係数は24.9%で、これはデンマークに次ぐ2番目の数字。つまり、日本は世界で2番目に富が公平に分配されている国家だった。ところが、先述の記事に出ている日本のジニ係数は38.7%で、これは1997年のポルトガルに匹敵する数値。世界ランクは一気に下がって65位になってしまう。
何でこんな急激な変化が起こったのかというと、これは日本の税収が極端に減ったから。要するに、日本国内で富の再分配を担当していたのが、地方公務員への給与とケインズ経済学を根拠とする公共事業や特殊法人へのバラマキだったのだ。すると、税収が減ればそれに合わせて公務員の仕事が外部の請負に代わり、公共事業の額が減るので、富の再分配が行われなくなった結果として所得格差が増大してしまう。しかし、これまで公共事業に依存してきた地方産業が自力で転換をすることが難しい(既存の権益システムを破壊せざるを得ない)ので思うように産業振興が進まず、景気が回復しないので……という悪循環を辿っているわけだ。
この状況が続けば、地方経済は優秀な起業家が出てこない限り確実に破綻する。その意味では、国民新党の主張である「このままじゃ日本が潰れる」は半分ぐらいは正しい。正確には、「日本の地方が潰れる」だから半分だ。
で、これとややクロスする、ニートやワーキングプアの問題は自営業の減少に原因を求めることができる。1980年代から現在までの、労働人口における顕著な変化は自営業の減少だ。具体的には、大型店舗の出店によって小規模な小売店がバタバタ潰れたという話ですね。で、何でこれがワーキングプアを生み出すかというと、以下の記事を読むと分かる。
ニートに「発達障害」の疑い、支援に心理専門職も
2006年 8月24日 (木) 03:14
仕事も通学もせず、職業訓練も受けていない15~34歳の若者を指す「ニート」について、厚生労働省は就労支援の内容を見直す方針を決めた。
ニートの一部に、「発達障害」の疑いのある人が含まれていることが、同省の調査で判明したため。実態をさらに把握したうえで、支援機関に心理などの専門職を配置するなど、きめ細かい支援のあり方を検討する。
調査は今年6月、首都圏などにあるニートの就職・自立支援施設4か所を選び、施設を利用したことのあるニートの若者155人について、行動の特徴や成育歴、指導記録などを心理の専門職らが調べた。
この結果、医師から発達障害との診断を受けている2人を含む計36人、23・2%に、発達障害またはその疑いがあることがわかった。
これも、格差社会問題ではあんまり扱われない話題だけど、実はニートと呼ばれる人達の中には、先天的に対人コミュニケーションが難しい人達が相当含まれている。まだ自営業が相当数あった時代は、こういう対他関係で問題を抱えている人達も小規模な自営業に吸収されていた。たとえば、小規模な小売店なら、顧客は商店街をよく使う顔見知りばかりだし、付き合いも小さな世界に限定されるので、仮に対他関係で問題を抱えていても、周囲が何となく援助してくれるから、(対他関係で)自分の生活を破壊するレベルの破綻というのがそれほど起こらない。
ところが、こういう人達が勤め先にしていた小規模自営業が潰れてしまうと、彼らの多くは大規模小売業に就職せざるを得なくなる。この段階で、かつての大部分が顔見知りだった商店街とワケが違い、就労者には高度な対他関係スキルが要求されるのでトラブルが続発。それ以前に、そもそも雇われないという状況になって……というのがニートの何割かが辿った道のり。村社会ではなぁなぁで済ませてくれることも、近代社会ではなぁなぁでは済ませてもらえないってこと。
余談になるが地方の小規模自営業の減少の直撃を受けたのが自民党という仮説を唱えているのが私に色々と政治学の知識を吹き込んでくれる知人で、この説はかなり鋭いと私は思っている。要するに、かつて(地方都市も含む)都市部で自民党を支持していた、商工会議所などを運営していた小規模自営業者が立ちゆかなくなった結果、都市部で無党派層が増大して政局が流動的になったんじゃないか、というのがこの仮説の趣旨。自民党を背後から突き崩したのはイトーヨーカ堂やイーオングループだったというところが、この仮説のおもしろポイントだね。もちろん、実証をするためには資料が必要なんだけど。
で、今日は先日に予告した(経済)格差社会問題に言及した、ネット上の言説について。この問題に関しては、知り合いの編集者が熱心に書籍を買い集めていたので、何冊か軽く流し読みをさせてもらったのだが、ジニ係数に言及した本があまりにも少なかったので、関心が持てなかった。経済格差を数値的に表現する方法には他に貧困率などがあるが、過去に経済学の徒だった私は、否定的な見解であったとしても、やはりジニ係数について言及された文章でなければ納得がいかない。
で、ジニ係数の名前を久方ぶりに見たのが、厚生労働省が8月24日に発表した「所得再分配調査報告書」。以下は翌日の新聞記事の引用。
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/20070825/20070825_001.shtml
世帯所得示す「ジニ係数」初の0.5超 所得格差が最大 05年 高齢者増など影響
厚生労働省が24日発表した2005年の「所得再分配調査報告書」によると、公的年金などを含まない世帯単位の「当初所得」の「ジニ係数」は過去最大の〇・5263で、初めて〇・5を超えた。報告書は原則として3年に1度まとめられており、これまでは前回02年の〇・4983が最大だった。
ジニ係数は所得分配の格差を示す代表的な指標。全世帯の所得が同額の場合を0(ゼロ)とし、1に近づくほど格差が大きいことを示す。
当初所得の平均は約466万円。前回から45万円減少している中、格差が拡大していることを示した。
厚労省は今回の結果を「(年金収入が多い)高齢者世帯の増加と、世帯の構成人数の減少による影響が約9割」と分析。若者を中心に非正規雇用が増加した影響などは「詳しく分析できない」としている。02年、05年とも小泉内閣の時期だが、格差の拡大傾向はそれ以前にさかのぼる。
一方、当初所得から税金と社会保険料負担額を差し引き、公的年金収入と医療、保育などの社会保障給付を加えた「再分配所得」のジニ係数は0.3873で過去最大だが前回の〇・3812からは微増。厚労省は「1999年の前々回調査からほぼ同じ水準で推移しており、社会保障の再分配機能が効果を上げている」と説明している。
当初所得の平均額約466万円に対し、再分配所得は約550万円。一方、65歳以上の高齢者世帯では当初所得約85万円に対し、再分配所得は約371万円となっている。
■識者談話 貧困層拡大が問題 同志社大の橘木俊詔教授(経済政策)
厚生労働省はジニ係数上昇の要因を「高齢者と単身者の増加のため」と説明して、まるで「格差拡大は統計上の見せ掛け。心配いらない」と言わんばかりだ。しかし、今回の結果は「高齢者と単身者に貧困な人が増えた」ことを意味している。最近は貧富の差の拡大ばかりに焦点が当たっているが、絶対的な貧困者数の増大を深刻に受け止める必要がある。
また、再分配所得のジニ係数を見ても3年前から格差は縮小していない点も重要だ。社会保障と税による所得再分配効果によって格差は是正されている‐と厚労省は主張したいのだろうが、他国との比較抜きでそう言い募っても意味がない。実際には、先進国の中で日本は再分配所得のジニ係数が大きすぎる。これは、手元に残るお金について世帯ごとの不平等度が他国に比べ高く、どれだけ消費できるかの格差が大きいということだ。
(以上、引用)
これを読んだ私は、「わーい、ジニ係数だ」と喜んだ勢いで格差社会を扱ったサイトの文章に目を通していったのだが、やはりジニ係数に関する記述が驚くほど少ない。経済関係のライターや、くだんの編集者に質問をしても、その理由はよく分からないとのこと。まあ、格差社会問題を長年追いかけている人達が分からないものを、にわかの私が分かるはずもないのだが、不思議な現象ではある。
余談になるが、1993年における日本のジニ係数は24.9%で、これはデンマークに次ぐ2番目の数字。つまり、日本は世界で2番目に富が公平に分配されている国家だった。ところが、先述の記事に出ている日本のジニ係数は38.7%で、これは1997年のポルトガルに匹敵する数値。世界ランクは一気に下がって65位になってしまう。
何でこんな急激な変化が起こったのかというと、これは日本の税収が極端に減ったから。要するに、日本国内で富の再分配を担当していたのが、地方公務員への給与とケインズ経済学を根拠とする公共事業や特殊法人へのバラマキだったのだ。すると、税収が減ればそれに合わせて公務員の仕事が外部の請負に代わり、公共事業の額が減るので、富の再分配が行われなくなった結果として所得格差が増大してしまう。しかし、これまで公共事業に依存してきた地方産業が自力で転換をすることが難しい(既存の権益システムを破壊せざるを得ない)ので思うように産業振興が進まず、景気が回復しないので……という悪循環を辿っているわけだ。
この状況が続けば、地方経済は優秀な起業家が出てこない限り確実に破綻する。その意味では、国民新党の主張である「このままじゃ日本が潰れる」は半分ぐらいは正しい。正確には、「日本の地方が潰れる」だから半分だ。
で、これとややクロスする、ニートやワーキングプアの問題は自営業の減少に原因を求めることができる。1980年代から現在までの、労働人口における顕著な変化は自営業の減少だ。具体的には、大型店舗の出店によって小規模な小売店がバタバタ潰れたという話ですね。で、何でこれがワーキングプアを生み出すかというと、以下の記事を読むと分かる。
ニートに「発達障害」の疑い、支援に心理専門職も
2006年 8月24日 (木) 03:14
仕事も通学もせず、職業訓練も受けていない15~34歳の若者を指す「ニート」について、厚生労働省は就労支援の内容を見直す方針を決めた。
ニートの一部に、「発達障害」の疑いのある人が含まれていることが、同省の調査で判明したため。実態をさらに把握したうえで、支援機関に心理などの専門職を配置するなど、きめ細かい支援のあり方を検討する。
調査は今年6月、首都圏などにあるニートの就職・自立支援施設4か所を選び、施設を利用したことのあるニートの若者155人について、行動の特徴や成育歴、指導記録などを心理の専門職らが調べた。
この結果、医師から発達障害との診断を受けている2人を含む計36人、23・2%に、発達障害またはその疑いがあることがわかった。
これも、格差社会問題ではあんまり扱われない話題だけど、実はニートと呼ばれる人達の中には、先天的に対人コミュニケーションが難しい人達が相当含まれている。まだ自営業が相当数あった時代は、こういう対他関係で問題を抱えている人達も小規模な自営業に吸収されていた。たとえば、小規模な小売店なら、顧客は商店街をよく使う顔見知りばかりだし、付き合いも小さな世界に限定されるので、仮に対他関係で問題を抱えていても、周囲が何となく援助してくれるから、(対他関係で)自分の生活を破壊するレベルの破綻というのがそれほど起こらない。
ところが、こういう人達が勤め先にしていた小規模自営業が潰れてしまうと、彼らの多くは大規模小売業に就職せざるを得なくなる。この段階で、かつての大部分が顔見知りだった商店街とワケが違い、就労者には高度な対他関係スキルが要求されるのでトラブルが続発。それ以前に、そもそも雇われないという状況になって……というのがニートの何割かが辿った道のり。村社会ではなぁなぁで済ませてくれることも、近代社会ではなぁなぁでは済ませてもらえないってこと。
余談になるが地方の小規模自営業の減少の直撃を受けたのが自民党という仮説を唱えているのが私に色々と政治学の知識を吹き込んでくれる知人で、この説はかなり鋭いと私は思っている。要するに、かつて(地方都市も含む)都市部で自民党を支持していた、商工会議所などを運営していた小規模自営業者が立ちゆかなくなった結果、都市部で無党派層が増大して政局が流動的になったんじゃないか、というのがこの仮説の趣旨。自民党を背後から突き崩したのはイトーヨーカ堂やイーオングループだったというところが、この仮説のおもしろポイントだね。もちろん、実証をするためには資料が必要なんだけど。
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- 2007-09-02
- 発信元 : 注目の新聞ビジネス関連記事 中小企業コンサル西口貴憲の視点
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