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赤いナポレオン・瀬島龍三(2)

 ところが、政府高級官僚が赤色化していくのと反比例するように、世俗世界での社会主義や共産主義は絶滅寸前だった。治安維持法特別高等警察のせいである。

 1925年に成立した治安維持法は、1917年に起こったロシア革命を日本で起こさせない目的で成立したものとされ、国体変革=天皇制の否定と、私有財産制度の否認=共産主義・無政府主義を取り締まりの対象とした。しかし、1928年に上記の2項目を別々に扱うように改正されたことを契機に、私有財産制度を肯定していても天皇制に疑義を挟めば起訴可能になったため、本来であれば共産主義とは相容れない宗教家や自由主義者までもが逮捕・起訴の対象となった。

 この治安維持法を執行していたのが特別高等警察(特高警察)で、いわゆる秘密警察の類である。そして、どの国の秘密警察も同様だが、特高警察もスパイ組織の拡充と、容疑者の拷問・殺害には余念がなかった。一説によると、逮捕者だけでも数十万、取調中の虐待死、あるいは意図的に殺された容疑者の数は数百人に及ぶという。

 しかし、高級官僚達は統制経済という名目で社会主義を実現できた。その理由は大きく分けて2つある。

 1つは軍の威光。戦前の警察=内務省と軍=陸軍省は対立関係にあり、相互の協力はほぼ皆無だった(ゴーストップ事件はその典型的な例)。そして、帝国陸軍には憲兵という警察組織があり、一般の警察とは役割分化=縦割り行政ができていた。だから、たとえ特高警察が陸軍の高級官僚を怪しいと思っても、これを逮捕することは事実上困難だった。憲兵も治安維持法を取り締まる立場だったが、彼らが標的にしたのは軍部に刃向かう人間=陸軍の高級官僚の意向に従わない人間だった。従って、軍人はもちろんのこと、彼らと親しい高級官僚達は、社会主義思想の持ち主であっても治安維持法で検挙される可能性はほぼ絶無だった。

 もう1つは社会主義に至るまでの行政的手法。社会主義や無政府主義というと、前述のように天皇制の否定、私有財産の否定がすぐに思い浮かぶ。だが、単に国家を社会主義的に運営するだけであれば、天皇制も私有財産も否定する必要はない。要するに、物品の価格や個数さえ調整できれば、統制経済=社会主義は成立するのである。

 具体的な例を挙げて検討してみよう。たとえば、パソコンを作る会社が1000社あったとしよう。これらの会社では、各自がバラバラにパソコンを生産し、その値段も性能もまちまちだ。安くて壊れやすい製品もあれば、高くて性能の良い製品もある。この状態が、通常の資本主義的な市場だ。これを社会主義的にするためには何をするべきか?

 まず、思いつくのが会社の数を減らすことである。色んな理由をつけて、規模を大きくした方が良いという結論を引き出して(スケールメリット)、行政が会社同士を合弁して企業の数を減らしてしまえばいい。国家総動員法のケースでは、日中戦争の泥沼化が理由に挙げられているが、本当のところ理屈は何でも良い。とにかく、会社の数を減らすのが肝要である。

 どうして会社の数を減らすのことがポイントなのかというと、行政官が企業を監視するためには、小企業が数多くあると困難だからだ。1000社の小企業と10社の大企業なら、どちらがより監視しやすいかは考えるまでもない。もちろん、10社の方だ。

 こうして、1000社あったパソコン会社を合弁に継ぐ合弁で10社まで減らしたなら、次に高級官僚の採る手段は『行政指導』である。高級官僚=行政官が10社まで減らした会社の経営者を呼び出して、生産するパソコンの品質や数量、価格を『指導』すれば、天皇制を否定しなくとも、私有財産を否定しなくとも、社会主義的な、すなわち計画経済は可能である。これを、カルテルと呼ぶ。日本語で言うところの『談合』だ。このケースでは、行政官が指導する『談合』なので、『官製談合』ということになる。

 日本人の多くは、社会主義経済と談合とカルテルが(ほぼ)同義であることを理解していない。言葉が違うから、意味も違うだろう程度にしか考えていない。だから、談合は悪いが社会主義的な平等原則の経済システムは悪くないなどと、トンチンカンな感想を抱いている阿呆が死ぬほど多い。とんでもない勘違いだ。

 社会主義経済というのは、生産物の数量や価格を行政官が計画的に決定するのだから、事前の協議=談合は必須なのだ。これがなければ、社会主義的な計画経済というのは絶対に成立しない。そして、カルテルという単語はドイツ語である。これは、ドイツから日本に談合制度が持ち込まれた名残であることを意味している。

(続く)

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Author:toriyamazine
東京都出身。
高校在学中にライターとしてデビュー。
以降は編集者・ライター・ゲームディレクター・実写アダルトDVDの監督、そして作家を兼任。
仕事はSMポルノ関係全般で、小説、ゲーム、実写etc、アニメーションを除くすべてのポルノ作品を平行して制作。年間発表数は約6作品前後がコンスタント。
一般作に関しては、別名義、もしくはアンカーマンとしてのみ参加中。

追記・最近になってメールで連絡が取れないという非難が多く聞かれるようになったので、仕事用のアドレスを公開しておきます。
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